日本の観光・飲食事業者が韓国人観光客の集客を考えるとき、判断材料になるのは訪問者数の統計です。しかし「何人来たか」は結果であって、「これから来る人が今、何を探しているか」は分かりません。
K-ASOKUは、韓国のNAVER検索広告システムから取得できる月間検索数の実測値を使い、韓国人が日本旅行について実際に検索している言葉を調査しました。対象は地名64地点 × 旅行テーマ7種の448キーワード、月間検索数の合計は235万回です。すべて実測値で、AIによる推定値は含みません。
結果には、日本側の感覚と食い違う点がいくつかありました。
1位は東京でも大阪でもなく、福岡
図: 韓国からの月間検索数(K-ASOKU調べ・NAVER検索広告API・2026年8月)
福岡が589,570回で最も多く、大阪419,130回、東京282,150回と続きます。東京は3位でした。
日本のインバウンド施策は東京・大阪・京都を中心に語られがちですが、韓国からの検索という観点では順位が異なります。福岡は韓国から空路で1時間台という距離の近さがあり、後述するように検索の中心が航空券であることを踏まえると、移動コストの低さが検索行動に直結していると読めます。
もう一点、松山が85,710回で京都の65,850回を上回りました。高松も49,510回で上位に入っています。四国は日本のインバウンド議論でほとんど登場しないエリアですが、韓国からの検索需要という意味では無視できない規模があります。
なお本調査は検索数の実測であり、実際の訪問者数とは別の指標です。検索が多い=訪問者が多い、と読み替えることはできません。
検索の46%は「航空券」— 目的地の前に、まず移動を調べている
図: 旅行テーマ別の月間検索数(K-ASOKU調べ・NAVER検索広告API・2026年8月)
テーマ別に見ると、航空券が1,092,570回と突出しています。全体235万回のうち46%が航空券です。旅行(総合)560,740回、観光スポット212,110回、グルメ163,790回、ホテル162,570回と続きます。
この分布が示すのは、韓国人の日本旅行の検索が「どこへ行くか」より前の段階に大きく集中しているということです。店舗レベルの検索(グルメ163,790回)は、航空券の6分の1以下にすぎません。
事業者側の実務に引き直すと、次のようになります。
| 検索の段階 | ボリューム | 事業者ができること |
|---|---|---|
| 航空券・旅行(総合) | 大きい | 直接の接点は作りにくい。エリア全体の情報発信が中心 |
| 観光スポット・ホテル | 中 | エリア×業種で見つけてもらう余地がある |
| グルメ・店舗レベル | 小さいが購買に最も近い | 体験記・地図情報で確実に押さえる |
ボリュームの大きさと、投資すべき場所は一致しません。 航空券の検索数が大きいからといって、飲食店が航空券関連のキーワードを狙う意味はありません。自社が接点を持てる段階で、確実に見つかる状態を作ることが優先されます。
旅行の検索は「県名」ではなく「都市名」に集中する
図: 旅行テーマと組み合わせた月間検索数(K-ASOKU調べ・NAVER検索広告API・2026年8月)
今回の調査で最も実務に効くのは、この結果かもしれません。「◯◯旅行」「◯◯맛집(人気店)」のように旅行テーマと組み合わせた検索では、県名と都市名で桁が変わります。
| 県名+旅行テーマ | 検索数 | 都市名+旅行テーマ | 検索数 |
|---|---|---|---|
| 愛知 | 0 | 名古屋 | 103,960 |
| 香川 | 0 | 高松 | 49,510 |
| 愛媛 | 60 | 松山 | 85,710 |
| 兵庫 | 70 | 神戸 | 52,650 |
| 北海道 | 14,030 | 札幌 | 223,220 |
誤解のないように補足します。 県名そのものがまったく検索されていないわけではありません。地名単体で追加実測したところ、「아이치(愛知)」は月2,120回、「가가와(香川)」は月2,170回の検索がありました。存在はします。
しかし同じ条件で都市名を測ると、「나고야(名古屋)」は月70,200回、「다카마쓰(高松)」は月57,500回です。県名単体でも都市名の26〜33分の1にとどまり、旅行テーマと組み合わせた検索ではほぼ都市名に一本化されます。愛媛と松山に至っては130倍以上の開きがありました。
日本の事業者は「愛知県のインバウンド対策」「香川県への誘客」と県単位で施策を組み立てがちです。しかし韓国語で情報発信するとき、県名を前面に出した表記はほとんど検索されていない言葉で書いていることになります。自治体や観光協会の多言語ページ、韓国語のSNSアカウント名やハッシュタグで県名を使っている場合、都市名へ寄せるだけで見つかりやすさが変わる可能性があります。
モバイルからの検索が79.2%
検索の内訳を端末別に見ると、モバイルが79.2%を占めます(シード枠448キーワードでの集計)。関連キーワードを含む12,251キーワード全体でも78.4%と、ほぼ同じ傾向でした。
つまり韓国人が日本の情報を探しているのは、ほとんどがスマートフォンの画面です。表示される情報量は限られ、スクロールされる範囲も短くなります。日本語サイトをそのまま翻訳した、PC前提の長い構成のページは、この画面では読まれにくくなります。
この調査の限界
データの読み方について、限界を明示しておきます。
1. 検索数は需要の指標であって、訪問者数ではありません。 航空券の検索が多いのは、購入前に何度も価格を比較するためという可能性もあります。検索1回=1人ではありません。
2. 対象は地名64地点に限られます。 今回のサンプリング枠に入っていない地域は集計されていません。「掲載がない=需要がない」ではなく、「今回は調べていない」と読んでください。
3. 表記ゆれの影響があります。 韓国語での日本の地名表記は複数存在する場合があり、代表的な表記を採用しています。別表記での検索は含まれていません。
4. 時点データです。 2026年8月時点の月間平均値であり、季節・為替・航空便の増減で変動します。

